中山間地でもスマート農業が始まっています。
皆さん。スマート農業って知っていますか?
私たち、魚沼農耕舎は、新潟県の「中山間地域スマート農業実証農場」として2年間、色々なことに取り組んできました。
今日は、新潟県地域農政推進課の担当の方や、新潟県農業総合研究所の作物研究センターの方などから、実証結果の報告を受け、今後の課題などについて検討を行いました。
この文章を読むと新潟県の中山間地、現場で検証されているスマート農業について、よくわかります。
少し長い投稿ですが、最後までお読みいただけたら幸いです。
この記事の内容は
目次
- そもそもスマート農業ってなに?
- その1 農業IT管理ツール豊作計画
- その2 直進キープ田植え機
- その3 遠隔自動給水装置による水管理の自動化
- その4 ラジコン除草機
- その5 空中散布用ドローン
- その6 蓄積データの活用
- その7 ドローンを用いた生育診断と自動施肥
- その8 食味収量センサー付きコンバイン
- まとめ
そもそもスマート農業ってなに?
農林水産省のHPには「ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農業を実現」「ロボット、AI、IoT等の先端技術を活用したスマート農業技術の研究開発、社会実装に向けた取組等」と書かれています。
以前、テレビドラマ『下町ロケット』で、無人のトラクターやコンバインが登場していましたが、これもスマート農業の一つです。さすがに土砂降りの雨の中、稲刈りができる技術はまだ開発されていませんので、そこはドラマの中だけのお話です。
田んぼ1枚が大きい平場の農業では、無人の田植え機やトラクターなどが、動き始めています。しかし、私たちの田んぼは1枚1枚がとても小さいことから、大きさの縛りがあり、無人機は使うことができません。
そこで、中山間地でも使えるかもしれない機械やシステムとして、私たちが実証したもの、取り組んでいることご紹介します。メーカー名や商品名などが出てきますが、正直な評価です。
その1 農業IT管理ツール「豊作計画」
私たちはそれまで、独自のシステムを利用していましたが、諸般の事情により新しいツールを探しておりました。今日日本では、各農機メーカーをはじめ、たくさんのものが利用されています。それぞれに一長一短ありますが、行う作業をスマホなどから入力でき、日報を作ってくれるものがほとんどです。また、圃場でどんな作業を行ったか、確認したりするのにも役立ちます。アナログで作業していた時には、稲刈りを忘れていた圃場があったことも・・・
将来的にはWAGRIといって、農業データプラットフォームとしてどのシステムからでも利用できるようになることを目指しています。
私たちは、クボタの農機が多いので、同社のKSASを導入すれば、色々と利点があるのはわかっていました。しかし、私たちが選んだのは、自動車メーカーのトヨタが提供する豊作計画です。これは、計画通りの作業を進めるという私たちの課題を解決するシステムと感じたからです。
農業ですので、天候に左右されることが多々あったりします。そのため、必要以上に先のことまでやってしまうことがあります。また、遅れていてもそのことを共有できていないこともありました。作業進捗の見える化、色々なデータを入力し紐づけることで経営の見える化が期待できます。また、トヨタが培った業務改善「トヨタ式カイゼン」を、小集団活動を通して実践していく手助けも行ってくれます。
少しずつ成果が表れてきていますので、導入してよかったと思っています。
その2 直進キープ田植え機
この田植え機は、手を放してもまっすぐ進むという優れもの。
田んぼの上は平らでも、田んぼの中は意外とデコボコなのです。
そのデコボコにハンドルを取られないよう、微調整しながら今まで植えてきました。これには熟練の技術がいります。
私も、毎年20haぐらい植えていましたが、それなりのスピードで田植えをしつつ、まっすぐ植えるには5年くらいはかかりました。
ところで、なんでまっすぐに植えなければいけないのでしょう?別に曲がったからといって曲がったイネが育つなんてことはありません。
それは、この後の色々な作業がやりやすい。イネの生育を観察しやすい。雑草や害虫の発見をしやすい。そんな理由からです。
スマートな直進キープ田植え機で作業した場合、まだまだ、経験の浅い従業員でも田植え作業をすることができます。私が経験の浅いころ、ちゃんと植えているか不安で後ろを良く振り返ったものでした。そうすると必ず、ハンドルが曲がってまっすぐに植えられなかったものです。それが、手を放して、後ろを確認しても曲がらないなんて、なんて素晴らしい機械なんでしょう!
また、田植え機のオペレーターは、まっすぐ植えていればいいというわけではありません。苗を切らしてはいけません。さらに植えながら肥料や農薬も散布したりしますので、とても気を使います。こんな確認も植えている途中にできるなんて!
その3 遠隔自動給水装置による水管理の自動化
田んぼには、必要な時期に必要な量の水が必要です。それを自動で、または遠隔操作で行ってくれるfarmo(ファーモ)の水位センサーと給水ゲートです。
お米を作るには、ほぼ毎日水を入れに行きます。貯まったころを見計らって止めに行き、温かくて新鮮な水がいつもたまっているというのが理想です。しかし、私たちの田んぼは、山手線の内側ぐらいのエリアに点在しています。そのため水管理に1日100㎞軽トラで走っている日も珍しくありません。せめて自動で止まってくれたら、走行距離が半分になるのに。
そんな悩みを、解決してくれるかもしれない機械です。これは、水管理が自動できるだけでなく、水位や土壌水分、地温や気温がデータとして残る非常に優れモノ。
利用した結果は、非常に良かったです。若干電波の不具合などありましたが、田んぼの状況が離れていてもわかるため、遠隔操作によりすぐに水を入れることができました。そのため、収量調査でも対照区に比べいい数字が出ました。しかし、値段が高い。400枚を優に超える私たちの田んぼにはとても導入は厳しいです。
機能を絞った安価版の開発を望みます。
その4 ラジコン除草機
田んぼと田んぼ間には畦、畦畔があります。そこをきれいに草刈りしておくことで、お米を食べにくる害虫の接近を減らすことができます。
私たちが魚沼産コシヒカリを作っている田んぼは中山間地にあります。棚田をイメージしていただければいいのですが、隣の田んぼは、一段下。その間には、長~い斜面の畔。夏の暑い日にここを草刈するのは非常につらく、危険な作業です。
そこでラジコン除草機「神刈」。3機種実証した中で最高評価を得たこの機械を導入しました。クローラーなので斜面における安定性は抜群です。慣れれば、クーラーのきいたトラックの中で操作ができそうです。問題は重量。
カヤをもなぎ倒すその安定感にも惚れたのですが、軽トラックに乗せて運べないのは難点です。
その5 空中散布用ドローン
イネの生育途中で、その時期にあった肥料や農薬を散布します。私たちは減農薬の特別栽培米に取り組んでいますが、8月の暑い時期、1回だけ殺虫剤を散布します。これは重たいホース引っ張りながら散布するする大変つらい作業なのです。
それをドローンが変わって作業してくれれば重労働から解放されます。散布時間も短くて済みます。大きい田んぼやまとまっているところなら。
これからの課題として、今までの方法で散布したほうがいいエリアと、ドローンで散布したほうがいいエリアをデータに基づき区分けしていくことだと思います。そして、今後は肥料散布やそばの播種作業にも広げていきたいと思っています。
その6 蓄積データの活用
お米作りは、穂が出る時期を予測して、それ以前のすべての作業が決まっていきます。データの活用により、熟練度に関係なく予測できれば、作業の計画にとても役立ちます。
経験のない人でも、作業適期の判断が可能となります。
今回は、田植えをした日と、メッシュ農業気象データを元に、色々なパラメータを掛け合わせて推測しました。
実際の出穂日とのずれはプラスマイナス2日。しかし、私たちは、たくさんの面積で栽培しておりますので、遅く植えたところでは、1週間のずれが起きてしまいました。まだまだ、改善の余地ありという技術でした。
その7 ドローンを用いた生育診断と自動施肥
1枚の田んぼでも、生育のいいところと悪いところがあります。均等な生育になるように肥料を上げるには、熟練の技術を要します。
そこで、ドローンを使って上空から田んぼを撮影し、葉っぱの色の濃淡を利用してメッシュ地図を作成します。そのメッシュごとに肥料の量を決めて、散布用のドローンで、指示したとおりに施肥します。そうすることで、イネの葉色がほぼそろいましたので、生育ムラが改善されました。素晴らしい技術です。
しかし、まだ、写真からメッシュ地図へ、また、散布指示へとシステム化されていません。もうすぐ実用化するそうなので、こうご期待!
その8 食味収量センサー付きコンバイン
稲刈りで収穫した籾は、乾燥機で乾燥します。乾燥機は色々な大きさがありますが、田んぼ1枚ずつというわけにはいきません。1つの乾燥機に何枚分もの籾が入りますので、1枚ずつの収量がわかりません。また、坪刈(一坪のみ試し刈りすること)して、収量調査もしますが、手間がかかり全部の田んぼですることはできません。
そこで、このコンバインの登場です。コンバインのタンクには重量が測れるようになっています。また、水分なども測れます。それらを計算すると、1枚ずつの収量が作業終了後すぐにわかるという優れもの。このデータを元に来年の栽培計画や施肥設計を適切に作ることができます。誤差もまあまあの範囲内でした。
ところが、このコンバインはクボタ製。クボタのKSASにしか連動していないのです。そこで、今回は実証圃場を中心にKSASも導入しました。豊作計画と2回入力しなければなりませんでしたので、オペレーターは大変でした。
前述しましたが、早くWAGRIによる連携を望みます。
まとめ
以上、私たち魚沼農耕舎が、魚沼産コシヒカリを栽培しながら実証した内容です。まとめると、中山間地でも使える技術はたくさんある。現在、農家の高齢化などによって、農業者の数が減っています。農業者が減っても農地を同じように減らすわけにはいきません。
積極的に利用して作業の省力化と魚沼産コシヒカリの高品質化を進めていきたいと思います。まだまだ技術的な課題や価格の問題もありますが、日本の叡智を集めれば必ず解決できると信じています。それは、時間の問題だと。